moNo’s note

最近読んだ本,観た映画など,気ままにメモします.

ワン・モア・ヌーク/藤井太洋(Taiyo Fujii)

中東を他国の干渉から遠ざけようとする男,放射線被害に無関心な国・国民に向き合わせようとする女. 二人のテロリストが,東京で「核をもう一度」使う小説.

小説自体の特徴は,2020.3.11の東京に舞台を設定するなど,現代技術や社会背景が盛り込まれていて,非常に生々しい点と,読み進めるほど犯人像が浮かび上がってくるような構成.非常に読みやすく,手が止まらない面白さだった.

最も気になっていたラスト. 読み進める途中の予想では,原爆で東京が吹き飛ばされるか,爆破が阻止される,のどちらかと思ったが,被害者はほぼゼロ,限定的な被爆で,各自の目的が果たされるという,主人公のシナリオ通りの綺麗な着地だった. 巻末の解説,「かくして,本作を読み終えた読者は,もう一つの「三・一一」に立ち会うことになる.ここからもう一度,未来をつくり始めよう.」,と書いていたが,私には「希望」だとか「未来」だとか,そんな空虚なものを主張しているようには見えなかった. まず解釈したメッセージは,あなたは一つめの「三・一一」を直視できていますか?,という問いかけではなかろうか. 実際,原発事故からの避難民が自殺,という背景があまりピンと来ず,ネットで検索するまで分からなかった. 例えばこの記事(https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwiF-eGqu6L1AhV7rlYBHRSJDiwQFnoECBYQAQ&url=https%3A%2F%2Fgendai.ismedia.jp%2Farticles%2F-%2F54918&usg=AOvVaw0gQU676MH2KO8C3yZWWvYi).

このメッセージは現在進行形のコロナについても通ずるところがある気がする. 例えば,昔から髪を切ってくれている美容師さんも,「3人の子供を育てている」状況で,非常にあれこれ警戒しているのだろう.「正しい」情報が分からず,恐らく説明を重ねても心配は拭えない.ここを,「無知」と切り捨て分断の道を選ぶのではなく,「対話」への姿勢に持っていけないものか.