moNo’s note

最近読んだ本,観た映画など,気ままにメモします.

サイダーのように言葉が湧き上がる(2020.7公開)

「フライングドッグ10周年記念作品」「牛尾憲輔」「イシグロキョウヘイ」という単語で気になっていたものの,ついぞ劇場では見れなかった作品.netflixで視聴.

所感は「新しそうで古めかしく,地味かもしれないが,綺麗に纏まった映画」. 最初はx1.5で見ていたけれど,クライマックスだけはx1に戻した.面白かった.

この映画の面白さは,いろんなものを混ぜ込んでいる割に,「地に足ついている」ところではないかな,と思う. 心情描写多めな演出,どこかアメリカアニメーションチックな配色,町中に落書きされた俳句を入れ込む背景,ショッピングモールという舞台設定,SNS・配信といった時代背景,など,昨今の現実・アニメ要素を入れている. 俳句をライムと言ってみたり,現代チックなショッピングモールに隠れ家があったり,そこでライブ配信してみたり,俳句を背景に「落書き」してみたり,曲に合わせて俳句を読んでみたり,劇中歌を1980年代?のシンガーソングライターが作詞・作曲していたり. しかし,悩みや情動は,今昔で変わっていない. 時代性が自然にミックスされていて,凄く地に足ついてる点が面白く,すんなり入ってきた.

心に刺さったのは,ヒロインが割れたレコードを直そうとしているシーン. くっつけようとしては失敗し,を「3度」も丁寧に描いたのは初めて見た気がする. 長尺で丁寧に描いたうえで,ラストは「金魚鉢割れて流れるもののあり」. 感情が決壊するまでの流れがものすごく綺麗.

ここまでは,初見の感想. 次に,少し頭をひねって,メッセージは何だったか考えてみる.

HPの監督のコメントは下記の通り.

テクノロジーの進歩によってコミュニケーションが簡易になったこの時代、果たして“リアルな言葉”は必要なのだろうか?僕のなかにあるこの問いに、作品を通して答えを出しました。

最初はこのコメントが腑に落ちなかった. 伝えるのに苦悩しているのは主人公だけで,ヒロインが苦悩しているのは全く別の悩みに見えていた. そのせいか,「主人公がSNSに書き込んだ思いがヒロインに(少し?)伝わったシーン」が,SNSだろうが俳句だろうが,どんな形であれ「伝わること」はある,という答えだと考えた. しかし,よく見てみると「別れのシーン」のラスト背景「雷鳴や伝えるためにこそ言葉」,「ラストシーン」でヒロインが初めて何かに気づいたような演出,いずれも,「リアルな言葉」にしなければ伝わらない,と言っている. つまり,主人公が伝えたいことがヒロインに届くか?という構図であり,主人公とヒロインの双方向で伝わり合うか,などと複雑に考えなければ腑に落ちる. この段階で,正直,つまらない答えだな,と思ったし,若干の説教臭さも感じるが,どこか納得している自分もいる.

ここまで考えてみると,現代的な要素を取り入れただけで,根幹は青春ドラマと大して変わらないと言える. そういう意味で,記憶には残るが,もう一度,絶対見たい映画,というほどではないかもしれない.