moNo’s note

最近読んだ本,観た映画など,気ままにメモします.

ALIFE|人工生命 より生命的なAIへ/岡瑞起(2022)

進化計算に触れたことがあったため,後半を流し読み. 強化学習は見ていたが,進化計算側の動向が少し見えた.

カオスの淵, 多変量ホークス過程, キーストーン種, ポリアの壺モデル, 群衆の知恵と集団的知性, 新規性探索, 品質多様性, Neural MMOEvolution Gym など.かなり参考になる情報,勉強したいことが増えた.

A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence/Jeff Hawkins(和訳, 2022)

神経科学の検知から,知能を司る新皮質が統一的な原理で解釈できる,という野心的なアイデアを解説してくれる本. 2時間かかる電車の中で読み始めたら,分かりやすすぎて手が止まらず,気づいたら目的の駅に着いていた. 一般読者向けなのと,一つの原理を説明しようとしていることもあって,非常に読みやすく,門外漢でも面白い.

三部構成で,第1部に提案する理論の話,第2部はAIに言及,第3部は人間に言及していて,最も面白く重要そうなのは第1部.

まず,人間の脳みそは, 古い脳に新しい脳を追加していくことで進化していて, 新しい脳は基本的に古い脳と協調する必要があって, 新皮質は新しい脳に該当し,テーブルクロスサイズ,厚さ2.5mmで,長細い皮質コラムの集まりとみなすことができ, 皮質コラムは場所によって違う入力に繋がっているらしい.

そのうえで,第4章の3つの発見をしたとのこと.

  1. 新皮質は世界の予測モデルを学習する
  2. 予測はニューロン内部で起こる
  3. 皮質コラムの秘密は座標系

認知系の講義で,視覚は局所的な特徴から大局的な特徴をとらえる階層的なもの,という話があったが,この本ではより一般的な視点から否定している. 局所的な入力ごとに状態認識と座標系へのマッピングの両方をやっているらしい.

統一的な見方は気持ちが良い. ハードと併せてコンセプト実証できると面白そうだな,と漠然と思う. 人工知能を突き詰めるには新皮質が面白そう(全脳アーキテクチャの活動は,どこまでやってるんだろう…?)

一方,欲望などはどこから来るか?どうやら,古い脳から来るとのこと. AI等々を使えるものにする意味で,古い脳へのアクセスにも興味が尽きない.

久々(?)に当たり本だった.

言葉/アボガド6(2022)

書店の漫画コーナーで何となく気になって購入. 漫画かと思ったらイラスト集.しかし,思いのほか興味深かった.

一部,心の病気や,虐待など,見ていて陰鬱になるものが含まれているせいか,暗い気持ちになりがちで,正直,ちょっとつらい. 見た目では分からない人の事情,外野と本人にしか分からない気持ちのずれ. あまり他人事と思えないのは何故だろう.

一転,陰鬱ではないもので,特に印象的だったのが「愛しい背中」という4枚のイラスト. 猫,犬,子供,車いすの老人を,一人称視点で,背後から見た絵. 子供から,大人への成長を描いたものだろうか. 何故だかぐっとくる. なぜ「ぐっとくる」のかは分からないのが,不思議.

「おとなになれるかな」というイラストも面白い. うなだれる大人の中に,操縦桿を握った子供. あぁ,同じことを考える人がいるんだな,と少し安心する.

「統率」というイラストは中々に皮肉が効いている. 個性と書かれた白線の上に並ばされる子供たち. 周りの大人は,指示したり,満足気だったり. 実際,そういう大人はいるのだろう.

しかし,最後のイラストにだけは,少し疑問が残る. そう「せざるを得なかった大人」は,本当に居なかったのか? それこそ,生徒の前以外でうなだれている大人が,統率せざるをえなくなってるのではないか? こういう疑問が起こるのは,時代的なものなのかもしれない.

表現において完全な中立はあり得ないが…一方に偏れなくなってる時代は,表現の難しい時代だなと感じたし,考えさせられた.

銀河英雄伝説(1988-2000)

最近のアニメリメイク版は見ていたので,その先の流れだけでも知りたくなり視聴. 全110話,最近のリメイクは見ていた部分を省いても残り85話程度. 3倍速で視聴したものの,3日もかかった.

終わってみれば,話自体は非常に単純. 出てくる人物名が多いだけで,陰謀側はあっけなく失敗するし,大きな困難らしきこともない. ラストは案外,あっけないものだった.

一方で,一番印象に残ったのは,物理的に血生臭い描写. 艦隊戦は,あっけなく爆発するだけだし,大将は比較的綺麗に死んでいく. しかし途中に,一般兵は,臓物が飛び出しながらも,床を這う絵が出てくる. 「母さん,母さん」というセリフ付き.

猫が車に轢かれた姿を見たことがあるだろうか. 破裂するのではなく,尻から内臓が飛び出すのである. この絵を見て,その猫のことを思い出してしまった.

今,こういった綺麗ではない死の描写を目にする機会は非常に少ない. 見ずに済むなら,その方が幸せなのだろうが. ただそのせいで,何か妙な勘違いを起こしはしないだろうか.

ひとはなぜ戦争をするのか/Albert Einstein, Sigmund Freud(2016)

1932年,ナチ政権誕生の手前でやり取りされた書簡. アインシュタインから,人間を戦争から解放できるか,という問いを投げかけ,フロイトが心理学の観点から答える形.

最も興味深いのは,組織や社会では到底利害関係のバランスを永続的にとることはできない.なら個人は?となると,

人から攻撃的な性質を取り除くなど,できそうにもない!

だから,攻撃性を戦争以外の方向に向けさせること. 加えて,文化の発展によって,理性的なコントロールが効くはずだ,ということ.

この書簡から90年,未だ戦争はなくなっていない. どちらにも正義があって,独裁色の強い人は未だに戦争を仕掛けている. 人のつながりが希薄になっているが本当なのだとしたら,人間の攻撃性は今どこに向いているのだろうか. SNSスマホゲーム? しかし,それだけでは不十分なようで,現に元首相が暗殺された.

つながりが自動化できるまでは,従来的なコミュニティ形成,平和主義的文化促進,攻撃性の受容先の3点が必要なのかもしれない.

残酷人生論/池田晶子(2010)

大学院生のとき何気なく買って,面白かったなぁ,という感想だけは残っていた本. 本棚を眺めて何気なく目が留まる.

最も不思議なのは,なぜその感想だけが残っていたのか.それは恐らく,文章が巧で,一種の爽快感と納得感が得られるから. 直感で理解できないタイトルからはじまり,論理てきな文章で,次から次へと展開していき,気づいたら納得した気になる. 本文中に,著作への批評へ答える形で,「私は,クラブ「存在」のチーママ」という文がある. これが最も,読み終えた心象に近いと思う.

一方で,主張していることは哲学者らしく,答えはないが,その姿勢をとことん示してくれる. 悩むのではなく考える,考えるためには疑う,そのために,その前提の存在を信じる.

あとがき(1998年に書いたらしい)にこうある.

とはいえ,決して,答えの書物ではありません.どこまでも,問いの書物です.

どこかで読んだ本にもあった. 宗教的考え方と哲学的考え方の違いは,答えを提示するか否か.

情報ではなく,知識にするには,自分の頭で考えて知る必要があるという. では,読後の爽快感が得られるだけで満足してよいのか. そうしたくない,と続くのが普通であろう.

しかし,煮詰まった頭を掻きまわして一度リセット程度で丁度良いのかもしれない. 帯にこういう挿絵がある. 「マッサージとハリとイケダアキコ,どれにします?」

永遠の831(2022)

amazon primeで見つけて視聴. 自分自身の閉塞感を言い当てられた気分になった. (ラストは腑に落ちないが.)

大きな流れは,3.11,もしくはコロナ後,831戦線=summer breakerと名乗るテロリストが政府に宣戦布告. 問題に立ち向かわず延々と夏休みの宿題が積まれた夏休み最終日を終わらせる,という趣旨. 怒りを引き金に時間を止められる主人公は,主犯格にその能力を利用される立場. しかし実際は,831戦線は,主犯格の復習と利益のために,大言壮語を実行してるように見せた典型的なテロリストであり, そこに関わった主人公は,命をかけた告発か,口をつぐんで静かに暮らすか,自死か,の三択が突き付けられ,最終的には全てを捨てて,ヒロインのもとに走る.

この映画から感じた重要な点は,永遠の夏休み最終日=三すくみの閉塞感. 時を止める特殊能力でなく,3Dという表現方法でもなく,ましてや主人公の最後の選択でもなないと思う.

終盤,ひきこもりから回復した人について新聞記事が映る. 社会に閉塞感を感じること,ひきこもりで身動きが取れない=人生に閉塞感を感じること,いずれも大きな宿題を抱え込む点では共通している. そんな人々は,何が正しいのか,正しいと思って何かを伝えようとしても無駄,しかし何もしないのは嫌だが,死ぬのも嫌だ. 全てが揃っているわけではないし,対象も違うだろうが,身動きの取れない状況にいる人は意外と多いのではないだろうか.

監督のインタビュー記事を少し読んだが,諦めてしまうのか,それでもと反骨するのか,どういう反応が返ってくるか待っているようだった.

私自身,明確な答えはないし,実際,色々な宿題から目を背けている. 凡庸に対応を考えるなら,真実と言われることを疑いつつ,ベターな判断を積み重ねる.その為には,向き合い続ける必要がある.

一方で世相は,逃げてよい,楽をしてよい,という時代. 宿題を解かなければいけない立場から逃げるには,そこから降りる必要がある.

では,宿題をなかったことにするには…? 小さなコミュニティから始める独立国家をつくるしかないのだろうか. それとも,自死の道しか残されてないのだろうか.

檻の中の葦は考えるだろうか?